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アパレル 3D ミートアップ 後記

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半分解展研究所で行われた「アパレル 3D ミートアップ」が大盛況の後に終了した。


真夏の夜に集まった60名を超える人々。
アパレル業界のみならず、別業界からの参加者も多かったのが印象的だった。

チケット販売当初から、熱い空間になることは予想できていた。
50席用意した2,000円のチケットは2日と掛からずに売り切れてしまった。
急遽10席追加したものの、それも一瞬で埋まっていった。

完売後も、キャンセル待ちのメールが10通ほど届き、本当に多くの人が興味関心 / 問題意識を持っていることがうかがえた。
(イベント開催のキッカケとなったtweetまとめ)


今回のイベントの特徴は、なんといっても現場の人間がプレゼンする「言葉の重み」だろう。

3Dソフトを開発するメーカー側の人間ではなく、服を生みだす実践の場で活用するデザイナー・パタンナーだからこそ発せる言葉が、純度高く、心に響く。
私はそこを最も伝えたかった。


ミートアップ後記として、私が印象的だと感じた言葉を4つ紹介する。
参加者の皆さんにも、ぜひBlogやSNSにイベントの感想 / 要望を書いてほしい。
今後、より熱い場をつくるための参考にしたい。



「CLOは盆栽、見立ての心を持つ」

これは登壇者であるパタンナー ちゃまさん の言葉だ。(CLOは3Dソフトの名称)

私の中でのMVPはこの言葉だ。
ちゃまさんはもう「仏のちゃま」と言うべきか。涅槃の境地に突入しているのかもしれない。
ちゃまさんは続けて言う。

「CLOはひとつの ものさし に過ぎない」と。

CLOで作業効率が格段に上がるとか、トワル組が減るとか、そんなことよりも「技術者として、新たな地点から自身の技術と対峙できること」が、この上ない幸せだと。

CLOは、自身の技術を残酷に映す。
ピン打ちあるあるのひとつである「何となく収まっちゃった」が3Dの世界では通用しない。
その無慈悲な世界にこそ、新たな成長の種を見出せるのかもしれない。


今後、間違いなくアパレルの 現場レベル にも急速に普及していく3D。
さて、3Dソフトとパタンナーの関係性は、どちらが「道具」として使われるのだろうか?
ちゃまさんの姿勢から得る 気付き は大きい。



「10年後、ファッションの流行をつくるのはゲーム業界かもしれない」

続いては、登壇者である HATRAデザイナー 長見氏 の言葉だ。

ミートアップ開催の発端となった私のTweetを要約すると「グラフィック(ゲーム)デザイナーと縫製士で服が完結した」と、なる。
ここで、「パタンナー」っていらないのでは?
との疑問が生まれたわけだが、私は長見さんの言葉で、はっ!とした。

Tweetの中には、パタンナーと同じく「ファッションデザイナー」も登場していないのだ。


これからの市場規模を見れば、アパレル業界とゲーム業界の伸び率は、火を見るよりも明らかだ。
経済産業省が出す統計などをググればすぐに出てくるので、ぜひ自分の目で、業界成長率や収益、平均年収を見てほしい。その現実は辛いものだ。

3Dが浸透した未来、ファッションのトレンドをゲーム業界が牽引しているのではないか。と長見さんは危機感を持つ。

「そんなわけない。ファッションデザインには、知識やセンスが必要だ」
なんて笑っているうちに過去の人間になっていくのだろう。



「静止の服 と インスタの服」

ミートアップ終了後、夜21時をまわっても会場には多くの人が残り、ディスカッションを続けていた。
そんな中で、ZOZO研究所に勤める藤嶋さんから言われたのが、上記の言葉だった。

藤嶋さんは、ミートアップ参加前に私の講義「袖の変遷250年 着心地 と 運動量の考察」にも参加してくれていた。

私の研究テーマとして「静と動の美」がある。
20世紀初頭に衣服は、静止の美しさを基準につくられるようになった。と私は仮定している。
また私は「衣服における美の構成の転換」は、約100年周期で訪れているとも見ている。

藤嶋さんは、それを踏まえたうえで「静止の服が生まれて100年経った現在、服は本当に止まっているのではないか」と言うのだ。

この言葉の意味することは、こちらの記事 や こちらの記事 に目を通してもらえると、理解できる。
つまり「Instagramの画面上にさえ、止まっていれば(表示されれば)良い」ということだ。

現実世界での、動きや静止なんて飛び越えて、データとして存在さえすれば、時に、その服には100万円の価値が生まれるのが、今の時代だ。

この視点は、私にはなかった。
藤嶋さんに言われて、初めて気付いた捉え方だ。
私は、驚きと幸せに満たされた。



「技術のオープンソース化は有りえるのか」

この言葉は、参加者のイチヤナギさんが投げかけてくれた質問から派生していったものだ。
質問全文は以下の通りとなる。(イチヤナギさんは別業界の人間)

「レファレンスデータが共有、再現性されたりコピーしやすくなる流れに見えます。元となる型紙は各企業のアセットとなるべきですか?それともオープンソース化していくと思いますか?」

この質問に対して、長見さん、ちゃまさんそれぞれの立場からのアンサーがあった。
そして、私も自身の実体験を交えて、下記のようなことを話した。


私は、技術はオープンにすべき、シェアすべきであると考え、実践している。
私は、オープンにする際、意識していることが1点ある。

技術の「抽象度」を上げることだ。
具体的な技術は、広がりを見せない。具体性が高ければ高いほど、狭い範囲にしか価値が生まれない。

例えば、プロのパタンナーがつくる「工業用パターン」は、縫製工場にとっては価値あるものだ。
指示が具体的に書かれていれば、より価値はあがる。

しかし、半・分解展のような開かれた場においては、工業用パターンに価値はない。
それよりもむしろ、「マスターパターン」に価値が見出される。

マスターパターンとは、パーツ化も裏展開もされていない、必要最低限のアウトラインのみが書かれた原型のことだ。

原型の状態だからこそ、受け取り方が無限に広がる。予期せぬ価値が見出される。


要約すると、上記のことを私は答えた。

アパレルのニュースにも取り上げられる「コピー問題」にも通じる質問だったと思う。
技術のオープンソース化は、止められないであろう。
私は問いたい。
技術が本当に価値なのか?
完成品にのみ価値が宿るのか?


「縫製業とクライアントが3Dで繋がる未来はくるか」

「閉じた2D CAD と 開けた3D CADの世界線」

などなど、個人的に刺さったパワーワードは他にもあったが、私のレポートはここまでとする。


参加者の皆さんは、どう感じたであろうか?
あの場所で共有した時間は、貴方になにを与えたのだろう?
ぜひ、声をきかせてくれないだろうか。


































当日に皆さんからいただいた質問は、3Dミートアップ質問 にて公開している。
たくさんの質問を拾いきれなくて申し訳なかった。


登壇してくれた長見さん、ちゃまさん、アシストしてくれたHATRAパタンナーの笠井さん、ありがとう。
参加していただいた皆さん、ありがとう。
次回は、2020年5月に開催予定の「半・分解展 東京」で会いましょう。
マジでガチなヤツです。



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