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技術・表現・価値

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「自分で自分のことは知り得ない」
専門学校の卒業制作に取り掛かる時期、そう気が付きました。
自己主張ではなく、他人からの評価が自分自身を形成しているのだと。


卒業制作は、もう8年も前のことですが1月末におこなった自身初のオーダー会で、その頃をふと思い出す出来事に遭遇しました。


2日間、港区西麻布にある「yau.」にて、私自身が手掛けるオーダーメイドの洋服のオーダー会を開催しました。
地上1階には「とある展示」をし、地下1階でオーダーの受注を承りました。

今回、書き留めるのは、地上1階で行ったとある展示での出来事です。


地上1階には「着心地」を展示しました。

会場には、約30着の服が並びます。
しかし、購入できる服は1着もありません。

そこに並ぶのは、
100年前のフランスの労働者の着心地。
150年前のイギリス紳士の着心地。
200年前の革命家の着心地などです。

これらは「半・分解展」で、着心地を体感してもらうために製作した「試着サンプル」なのです。

試着サンプルのみを並べた展示は、初の試みでした。
気に入った「着心地」が見つかれば、その「型紙」を購入することができます。

そう。
買えるのは、服ではなく、服の設計図なのです。


その方は、芸術家でした。

展示を見て「こんな服を探し求めていた」と言ってくださいました。

その方は設計図ではなく、試着サンプルそのものを買いたいと言うのです。
偶然にも、その方の表現方法には、私のつくった試着サンプルが適任だったのです。


話しをしていくうちに、そのような需要もあるのかと驚きました。
「着心地を体感するための装置」としか思っていなかったものが、自分では想像もしない価値を見出した瞬間だったのです。


地上1階には、もうひとつ不思議なものを置きました。

それは「100年前の裏地」です。

愛知県は一宮にある葛利毛織との共同開発で生まれた裏地です。
この開発のスタートにビジネスはありません。

「探究心」と「熱狂」と「信頼」からのみでつくられました。
もし、ビジネスから始まっていたら、この裏地が織られることは決してなかったでしょう。
だからこそ、私たちでなければ現代に蘇ることの無い裏地だったと断言できます。


そして実験的に、この誰にも真意はわからない裏地に、誰にでもわかる価値=値段を付けて、展示してみました。

数名の方が、この裏地に興味を示し、その中には購入してくれた方もいました。


「自分で自分のことは知り得ない」

日々、この連続です。
この連続を蓄積していきたい
即興の積み重ねから学びを得たい。

その為にも、自分の技術をさまざまな形で表現し続けます。

私は決して、手を止めません。


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