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縫いたくなる服

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ようやく、アビ・ア・ラ・フランセーズのパターンが完成しました。


マスターパターンが完成しただけで、これから工業用パターンに展開したり、グレーディングをし各サイズつくったり、またそれを縫ったりと。やることは多々あります。

しかし「パターンの完成」は服づくりの工程における一区切り。
ここで、製作過程をまとめておきます。


まずは、半分に切った後のアビ。

このアビは18世紀末のもの。
華美な装飾が落ち着いてきたころ。時期的には、フランス革命前夜です。

もう少し古いアビになれば、豪華な刺繍が施されています。


左半身は、バラバラに分解します。

この個体の特徴的な「顎ぐせ」が左にのみ入ります。
通常、アビにはダーツが見られませんので、この個体が大変珍しいのと同時に、頭を悩ませます。
恐らく、このアビの持ち主の身体的理由によるダーツかもしれません。
答えは誰にもわからないでしょう・・・

ダーツ以外にも「芯使い」が非常に興味深い点でした。
ぜひ、半・分解展にて実際に確認していただきたいポイントです。


裾のプリーツを広げるとここまで長くなります。
蹴回し(裾)の寸法はなんと半身で160cm。
ぐるっと一周で320cmにも及びます。
大変な分量と重さがあります。

そして、160cmもあるプリーツが60cmになるまで折り畳まれるので、生地が重なる部分の厚みは脅威の2cm弱と、ミシンではとても縫えない厚さになってしまいます。

この時代はミシン誕生の半世紀前ですので、もちろん全て手縫い。
どんな針を使い、この厚い縫い目に針を通したのでしょうか・・・


袖です。
現代の袖とは、全く違うアプローチで設計されています。

外袖のS字カーブや、涙型の袖の目、くの字等袖など、人によって捉え方が異なる特徴がみてとれます。
私は順に、肘分量、腕のポジショニング、装飾美か造形美か。といった捉え方をしています。

袖ひとつで、多くの問いを投げかけてくる貴重な資料です。


そして、完成したパターンがこちら。

分解したパーツから手作業でパターンを抜き取り、それをデータ化しCADで整えました。
とくに裾のプリーツ部分は構造が複雑で、分解せずに残した半身が無ければ解読不可能でした。


束になったプリーツを最後にまとめて7mm後に倒すことに気付いたときは、目から鱗と同時に、これが厚みを生む最大の原因かと、縫う時のことを考え恐ろしくなりました。


そして、よく質問される「前身頃の丸み」
前端が極端なカーブを描いていたり、アームホールがまん丸な形だったり。
平面でみると、身体の曲線をなぞっている造形的なつくりかのように見えますが、私はアビの場合は、違った見方をしています。

これらの線は造形ではなく「美意識」からなるものと見ています。
アビの主役であるヴェストを魅せる為、幾重ものプリーツが施された裾を逃がす為に、誇張した反身設計にして前身頃を傾けていると。
その誇張した反身の結果が、前身頃の丸みに繋がるのです。

この「傾き」の説明は、言葉のみでは困難なので、ぜひ半・分解展で。


ちなみに、袖のイセは一周で2%弱。
厚みのあるベルベットシルクを、手縫いで袖付けしているので「イセ」というよりは、縫っていて自然に入った分量だと考えるのが妥当でしょう。


CADで整える前に、手書き状態のパターンから試作したトワルを着用しました。

着ると腕が自然にあがります。
この状態が、最も楽な姿勢なのです。
例えば、腕を下げて「気を付け」の姿勢をすると、腕まわりに圧迫感が生じます。

自然に腕があがる姿勢から、何が想い浮かぶでしょうか。
馬に乗るような、ダンスを踊るような・・・そんな姿を想像してしまいます。


分解前のこの姿に戻ることは、もうありません。
私は、壊し、つくり、未来に繋げます。

美しいアビそのものは、美術館や博物館が残してくれるでしょう。

私が残すのは、アビの美しさの根幹となる「内部構造」そして「着心地」です。
目に見えないものを可視化し、言語化し、具現化し、私は未来に繋げます。

ああ、早く縫いたい。
わくわくがとまらない。



九州での イベント開催 のお知らせ。

2019年2月11日(月・祝)
福岡は天神にて「半・分解展 アトリエ」を開催します。

詳細、ご応募はコチラよりお願いします。




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