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The cutter & tailor 2

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さて、前回はそれぞれ3種のパターンをトレースしたところまでUPしました。

みなさんは一体どんなところが気になりましたか?
今回は身頃に注目して、小生なりに検証してみます。アハ




上は前回もUPした其々の身頃を重ね合わせた図です。
のような製図は見慣れてる方も多いと思います。


そこで、1890年代のパターン・とMens Garmentsのパターン・に共通して見られる特徴、つまり古い製図に共通して見られる特徴を考察していこうと思います。私なりに。






まずは、矢印AとBに見られる大きく倒れ込むフロントです。
何故こんなにも着込み分量をいれるのでしょうか?

そして、矢印Cの極端に下がった肩線
デザインとして肩線を下げているのでしょうか?

胸幅・背幅の比率は1と比べると全く異なります。何故?
胸幅に伴い、AH幅も狭くなります。
また、着丈に対するカマ寸(AHの深さ)は何故こんなにも浅いのでしょう?

カッタウェイは何処からきたの?なんで2面体なの?アゴ癖って?マニピュレーションダーツって?
「?」がイッパイです。

それぞれの「意味」をとても知りたくなります。

「デザインです!」と云う言葉で容易に片付けられるのでしょうか?
「デザイン」と云う言葉はとてもキケンです。
当時の歴史・文化を知り、現代を生きる私なりに"ソレ"を伝えられたら、機能させられたらとっても嬉しいんデス。嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああ



んなこんなで!!!!!
製図とにらめっこしていても何も始まりません。!
そこで、当時のアドやネガをちょいと見てみましょう。





1890年のアドです。
ヤッパリ気になるフロントの流れ方。高いラペル返りの位置。素敵なスッテキ。



こちらも1890年前後のアド。
「さすがにこのイラストは極端過ぎない?
胸のボリューム・なで肩・後下がりの肩線etc...」 
と、聞こえてきそうですが、

そんなことないんです。!
当時のアドはこれくらい極端に描かれたモノが多数存在しています。





1900年のネガです。
最初のアドと同じような着こなし方です。
丸い肩まわりにボリューミィなバスト。特徴的なフロントのはけ具合。
みんな大好きLounge Suit ラウンジスーツ!



こちらも同じく1900年のネガ。
やはり、バストのボリュームが特徴的です。スーツから覗くチェーンは懐中時計でしょうか?
タイトなスラックスにも注目です。ちなみに「タイトスラックス」と云う言葉が生まれたのは1880年代なんですよ。意外でしょ。

てか何だこの背景は。



と、まあ当時の資料をほんの一部紹介しました。
ここで最初の疑問点に戻ります。






まず、矢印ABに見られる大きく倒れこむフロント胸幅・背幅の比率についてですが、当時の紳士服の美意識として「厚い胸板が美しい」と云う価値観があったようです。
男性の力強さ勇ましさを表現する為にこの様な製図ほうが用いられたようです。





何故、胸を強調する美意識が生まれたのかは、フランス革命産業革命が大きな影響を与えています。紳士服の歴史に、この2つの出来事は切っても切れない密接な関係があります。
戦時中、相手に威圧感を与えるために大きく厚い胸板は有効な手段だったのでしょう。
その美意識が20世紀初頭までは強く根付いていたようです。

また、私は当時の古着を着てみても思うのですが、胸幅寸法を広くとると云う考え方と逆の発想で、背幅寸法を狭くとることにより、強制的に反身体にして胸を強調したのではないか?とも考えています。
ワタシ、屈伸体気味なんですが、当時の服を着ると勝手に反身体になりますもん。サイズが合ってない云々ではなくて。


また、大きく倒れこむフロントには機能的な意味も含まれていたようです。


フロントが倒れるとは、FCにダーツが入るとも考えられます。
つまり、第一ボタンだけを留めれば自然と裾が後に逃げていきます。
上のほうで紹介した1900年のネガを見て頂ければそれが確認できると思います。

そう、馬に乗るのに適した製図方だったのです。
もともと、カッタウェイは乗馬のディテールとして生まれたものですからね。
フロントラインをただ削っているだけではなく、フロントを倒し、より効率的に裾をはけさせていたのでしょう。

このような製図法は後のワークウェアにも確認することが出来ます。
(いつも舘野さんのペエジお借りしてスイマセン。!)





(2012年2月 追記!!!!!!!)

う~ん。斜線を引いてしまいました。
いきなり、斜線が入っていて読みづらかったでしょう。すいません。

小生、まだまだ知識不足で24時間勉強中なのですが、参考書・当時のネガ・テーラー講習・古着の解体などで、学んでいくうちに当初に小生が考えていたコト(斜線部)に疑問を感じ、斜線を引かせて頂きました。

このブログは、今現在は私の勉強ノートみたいな感覚でやっていますので、あえて文章を消さずに追記での修正をしました。 後々、このブログにも責任を持たすようにはします。

フロントの倒れ込み、いわゆる着込み分や前後の比率は、やはり乗馬からの機能的なモノだと思います。すいません。

今後とも何卒よろしくお願いします。  長谷川

(追記ここまで)






さらに私が気になる点が着丈に対するカマ寸が浅いことです。
「カマが浅い」と聞いて皆さんはどう思われるでしょうか?
カマが深いほうが動きやすい。と考える方が大部分かな?と思います。

その辺のゆとりのさじ加減については三重県にあるテーラーカスカベ様のコラムに書かれているのでそちらのリンクを貼っておきます。→ゆとりと着心地
この方のコラムは大変勉強になります。いつも読ませて頂いてます。ありがとうございます。

このカマ寸を説明にするには実物を見るのが手っ取り早いので、後々古着と共に写真で紹介しようと思います。
皆さんも機会があれば、当時のジャケットを着てみて下さい。!
腋にグッ!とAHが食い込んできます。グッ!








そしてそして、矢印Cの極端に下がった肩線についてです。
こちらもいろいろな諸説がありますが、私はどれが正しいとか間違っているとかそんなことはドウデモイインデス。
"その人"がどのような考え方・生き方をしてきたか、これまでの経験や知識、はたまた志しや夢から見出した「コト」に興味があるんデス。

この、後下がりの肩線についてもそうです。
ここで、オモシロイエピソードがあるので紹介します。


・とあるテーラーの方は、著書にこのように書いています。


当時は生地を織る技術も低く、厚く固いウールしか織れなかった。そこで考え出されたのが後下がりの肩線だ。
後肩線下げることにより生地をバイアス状にし、厚く固い生地を効率的にイセ込むことが可能になった。

うーんスバラシイ。納得です。まさにテーラー目線からの考え方です。


・続いて、私がテーラーリングを学んだ垣田幸男先生はこのように仰っていました。

肩の縫い目を後方に移動することにより、前方から見た時のシルエットに丸みが得られ、よりエレガントになる。


なんて垣田さんらしいご意見でしょう。!
フランスでテーラーを学んだ美学からくる考察です。もちろん上記のようにイセ込みについても触れていましたが、この様にその人自身からくる考え方に感動します。


・こんな意見も聞いたこともあります。岡山のデニム工場に勤めるとある方から

重い荷物を背負った時に、擦り切れやすい縫い目が後にあることで生地への負担を軽減できる。さらに、厚い縫い目が肩に食い込むことを回避できる。つまり身体への圧迫感も少なくなる。


嗚呼、これにも感動です。
この方はワークウェアが大好きで、そういった視点からこの様に考えたのでしょう。
確かに厚みのある縫い目は擦れ易いし、身体に食い込んで痛い時もあります。
普段からワークウェアを着て作業している方らしい考えです。


どれも、とても素晴らしい意見です。
こんなふうに、自分の考え(生き様)を持った人を私はとっても尊敬します。
そんな人達と話しているとたくさんたくさん学ぶことが出来ます。
嗚呼、ありがとう。




と、まあ私が古い製図方について気になっていたコトをかるーく紹介しました。

次回はそんな疑問点の中でも特に頭を悩ませる「肩傾斜」について考察してみようと思います。

1890年代当時のパターン・として紹介した、イギリスのジョン・ウィリアムソン社(1866年創業)の製図方にとどまらず、私が所有する当時の製図方は全て肩傾斜がオカシイ!!
ちなみに、Mens Garments(1996年出版)のパターン(3として紹介)は全て肩傾斜が適正に直されています。
なので「古典的な現代的パターン」として紹介したんす。


何故!?100年前は超なで肩の製図法だったのか!!!!???
を考えます。
これにはパターンだけではなく、芯地使いも密接に絡んできます・・・・
続きはTHE CUTTER & TAILOR 3で!おやすみ!














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