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美しい記憶

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 長男が3歳のころ、ふたりで一緒に公園を散歩していた

透き通った冷たい空気、乾燥した落ち葉を踏みしめる音
太陽のやわらかい日差しを感じとれる気持ちの良い日だった


少し先からこっちを向いて「花が咲いてるよ」と彼に呼ばれる


近くによってそばに立ってみても花なんかどこにも見つからなかった

それでも彼は指をさして、花が咲いてるよと教えてくれる

指の先にあるのは、大人が腰掛けるのにちょうど良さそうな大きさの切り株がひとつ

花はおろか、幹も枝も葉っぱさえもない


困っている私を尻目に彼は説明を続ける

花が咲いているよと、指先で年輪をなぞりながら、私にもみえるように教えてくれた


年輪が花びらだった

ぐるぐると渦巻きを重ねた木の一生を、彼は花といっていた


幹や枝や葉っぱがなくても、彼には花がみえていた

彼だけの花を私に教えてくれた

とても美しいものだった

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