平成最後の華金。
うめき声を漏らしながら、重い荷物を抱え自宅の狭い階段を6往復。
朝降っていた雨がいつの間にか止んだころ、半・分解展の荷物を京都に向けて出荷しました。
2019年
京都での展示は2年ぶり。福岡では初開催となります。
昨年2018年の東京/愛知での展示に続き、関西九州方面を巡回できることを大変嬉しく思います。協力してくれる仲間なしでは叶わないことです。
しかし、大きな不安があります。
特に心配なのは「お金」の問題。
どう予算を切り詰めても1回の個展で、7桁強は掛かってしまいます。
はたして回収できるのか?家計に負担をかけてしまわないか?
2人の子を持つ親として、個人事業主として、心配ぜずにはいられません。
正直、お金のことだけを考えるのであれば、東京のみで開催する方が気持ちは楽です。
私は東京が拠点なので、宿泊費や交通費、恐ろしき送料など、それらが掛からないことは大きなアドバンテージになります。
それでも私は、巡回展の開催を決断します。
なぜ全国を巡回するのか。
何のために京都や福岡や愛知に足を延ばすのか。
頭の片隅に潜む問いと向き合います。
私は、私を追い込むために巡回展をしています。
1番の理由はこれに尽きます。
挑戦する環境に身を置く。辛い方の道を選ぶ。自分の道を切り開く。
そうしなければ私は生きていけないです。誰かの幸せのためなんて、言えません。
私は私のためにのみ半・分解展を行います。
私が目指す「100年前の感動を100年後に伝える」とは、自己責任でリスクを伴う動きをしなければ叶いません。
自身を追い込むという理由以外に、もうひとつだけ挙げるとすれば
「人と出会うため」です。
私は、半・分解展を通して多くの人と出会い、話しをしました。
その経験は私のクリエイティブを最も刺激します。
対話なくして私の表現は成立しません。
ひとつ強く印象に残っている出会いがあります。
それは、2016年の愛知展。
上村くんという学生との出会いです。
2016年は、初めて半・分解展を行った年でした。
紳士服の歴史をみると2016年は、スーツ生誕350周年。
この節目を機に、私は人生の勝負に出ました。
京都、愛知、東京と3都市を巡回をした年。
愛知展だけは、予算や時期の関係で、規模を縮小し開催しました。
後ろめたい気持ちで取り組んだ愛知展でしたが、振り返れば、最も実りある出会いを生んだ展示となりました。
「素人なんですが、入っても大丈夫ですか?」と入口から低く小さな声がします。
ヨーロッパのビンテージの服に身を包んだ若い男の子です。
どうぞ。と応えると緊張した面持ちで入場し、それから長い時間じっと分解された服を見つめていました。
上村くんとの出会いです。
彼は、たった6着の服を5時間もかけて見ていきました。
私の記憶が正しければ、翌日に友人を連れて再訪問もします。
そのあいだに、彼と何を語り合ったでしょうか。
好きな古着の話しに始まり、服の構造の話し、大学生活のこと、就職活動のこと、夢について。
なぜか彼との会話はごく自然に続きます。
個展終了後も彼との連絡は続きました。
葛利毛織に就職が決まったという報告。
服づくりを教えてほしいという相談。
私のアトリエで、泊まり込みでシャツの縫製を教えた日。
そうしたうちに2018年を迎え、私は2度目の半・分解展を愛知で行います。
彼はまた、長い時間を滞在します。彼とまた、多くの言葉を交わします。
個展終了後にきた連絡は、報告でも相談でもありませんでした。
「半・分解展の感動を織らせてください」と。
ここから、葛利毛織と半・分解展の共同開発が始まります。
工場に足を運び、打ち合わせを重ねます。
100年前の生地の再現は、そう簡単にはいきません。古着から生地を切り取り解析し、組織や原料を調べます。
試織を繰り返し、完成したのが「100年前の裏地」です。
上村くんとの出会いから2年が経っていました。
この生地開発は、情熱と探究心が形にしたと言いきれます。
まさに半・分解展の感動を織りあげたものでした。
・100年前の裏地
・耐久性をアップデートし、再開発した150年前の裏地
これらを2019年の京都、福岡 巡回展にて初披露します。
5月3日(金)には上村くんを迎えてのトークショーを行います。
タイトルは「感動の渦に巻き込まれて 彼が織る理由」です。
2年前はお客さんでしたが、今回は表現者として半・分解展に足を運んでもらいます。
今度は彼と一体何を話すのか、緊張と興奮が入り交じります。
私は、まだまだ不安です。
半・分解展の初日まで払拭することはできないでしょう。
私が唯一できるのは、誠実に自分の言葉で話すことです。
目先の不安に惑わされず、自身が目指す少し先の未来を見失わないように取り組みます。
半・分解展
京都 4月30日(火)~5月5日(日)
福岡 5月17日(金)~5月19日(日)
※京都展の前売り券販売は、4月29日までとなります。公式HPをご確認ください。